著名人コメント <敬称略・順不同>
凝縮された美しさ。
奇想天外な物語がある一方、誰もが身に覚えのあるような身近なストーリーもある。
認知症がじわじわと進行しつつある母親に、出産を控えた息子夫婦が向き合う、という誰にとっても身につまされるような、悪く云えば日常的なドラマを、思い切って凝縮してみる、何百気圧のプレッシャーをかけてギュウギュウ圧縮すると、透明なキラキラした美しい結晶体に変化する。
川村監督の『百花』はそんな映画だ。
ワンシーンワンカットで撮影された、いわば「長回し」の大胆な演出スタイルが不思議に飽きさせない。うまい演出とは云いたくない、この作品の力はスタイルではなく、このドラマにかけた監督のエネルギー、情念、憧れ、愛情、といったもの、つまりハートなのだということをしみじみ思わせてくれたし、実は初演出の川村元気君自身が完成した作品を見てそのことに気づき、衝撃的に思いあたっているに違いない。
「カットとカットの間に神が宿るんだ、それが映画というもんだよ」と、ぼくに語ってくれた黒澤明監督の温顔をしみじみ思い出す。
映画監督
山田洋次
映画は最初から野心的であざやかだった。絶妙なロングショットは、非常に繊細かつ鋭敏に演出されていて、最後まで緊張感が続く。
何よりも感動したのは、映画の後半で、主人公の泉が母の百合子に「なんで忘れてんだよ、こっちは忘れらんねえんだよ」と叫ぶ場面。そしてラストに、母親が求める「半分の花火」が何だったのか、その本当の意味に彼が気づく。なんと感動する瞬間なのか。改めて、息子と母の親子関係の本質を力強く感動的に描いた作品だ。素晴らしい作品を見せてくれたことに、感謝を伝えたい。
映画監督
ポン・ジュノ
母の記憶とリンクするピアノ曲と抑制された音楽と。
本当に久しぶりに映画に浸った。
スタジオジブリ・プロデューサー
鈴木敏夫
記憶とは歪んだイビツな鏡なのかも知れない。母にとって小さな湖が、海と映る。果てなく大きな存在が母であるその息子の鏡には。
映画監督
岩井俊二
もしも大切な思い出をぜんぶ泥棒に盗まれたとしたら、私は生きて行く価値のない人間になるだろうか。いや、そんなことはない。思い出がなくても今がある。今を生きることにしよう。この映画を観て、私はそんなことを思った。
作家・エッセイスト
阿川佐和子
丁寧で繊細な物語に涙した。
驚くべきは、この作品の監督が『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』など手掛けた日本有数の超ヒット映画プロデューサー川村元気氏だということ。息子が決して忘れない母の罪を、忘れてゆく母。しかし母は、子供が忘れていたことを認知症でも忘れない。これは、米国アカデミー賞受賞の『ファーザー』に負けない、日本が送り出す『マザー』である。
フリーアナウンサー
笠井信輔
映像体験としても世界観においてもストーリーテリングにおいても、事前の想像をはるかに超えたパワフルさに驚嘆した。なにより、人間の愛の記憶が波打ち際の砂の表情のように消滅していく様が切なく美しかった。
天才的! 天才的?
さすがに長篇映画第一作なのだから、過大な評価かもしれない。ただ、「秀逸」といった枠に回収される作品でないことは明らかだ。
息子が母を介護施設に置き去りにし、乗り込んだバスが動き出した場面―― 、車内に固定されたカメラが後退してゆく風景をとらえ、そこに花々が次々写り込んできた。私はそれが作品全体のなかでももっとも美しい「演出」だと思い、こころの中で力いっぱい拍手を送ったのだった。だが、実はあの花たちこそ映画の奇跡だったのではないか。
文芸誌「新潮」編集長
矢野 優
驚いた。慎重に考え抜かれた設計と、「役者の映画」としての豊穣なエモーション。
英映画『ファーザー』と比較したくもなるが、愛の時空間は独自に大きく広がっている。
映画評論家
森 直人
私は生粋のおばあちゃん子で、あらゆることを忘れてゆく晩年の祖母を間近でみながら過ごしました。会話もままならないほど認知症が進んだある日、ベッドに横たわるおばあちゃんに「人生で一番辛かったことは?」と訊くと、目に涙を溜めながら「旦那が死んだとき」とはっきりそう言ったのです。このひとは優しいおばあちゃんである以前に、恋をした一人の女性だったんだと感じた忘れ難い出来事です。この映画でそんな祖母のことが思い出され、涙が止まりませんでした。
マカロニえんぴつ
はっとり
緻密に、ロジカルに構築された画面から、ふいに溢れ出すエモーションの奔流。
記憶が失われてゆく、と同時に大切な記憶があらわになる、その意外な瞬間に胸を突かれる。
きわめて技巧的で、きわめて感動的な映画。
ライター/編集者
門間雄介
初監督作品にして、ここまで見事に作品全体をデザインすることができるのか。
国内メジャー配給作品で、ここまで大胆な映画的表現が許されるのか。
『百花』は、2022年日本映画界における最大の驚きを多くの人にもたらすだろう。
映画ジャーナリスト
宇野維正
これはみんなのおはなし。
記憶について感動の物語でありながら、人間ドキュメンタリーです。
みんなに感情移入しました。
記憶が薄れる母。
美化せずに描かれる息子の気持ち。
菅田将暉さん演じる泉の感情が爆発したときに私も悔し涙を流しました。
また長澤まさみさん演じる奥様・香織の立場からの支えの
難しさと距離感を見事に表現。
全ての伏線が綺麗に回収されて、記憶と言うものについて考える時間が表れる。
考えた末、誰かと話したくなりますし、
これから深い思い出をいっぱい作りたいと思った。

人にとっては不完全かもしれない出来事が
誰かにとって掛け替えのないものだったりする。

本当に不思議.....
映画コメンテーター
LiLiCo